甲状腺とは

甲状腺は、頚の前側中央あたりに位置する内分泌器官で、蝶が羽を広げたような形をした小さな臓器です(重さは20g程度)。男女で位置が微妙に異なり、男性の方がやや下の方にあります。
ここでは、甲状腺ホルモンが分泌されますが、その分泌量は脳内にある内分泌器官である視床下部・下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されています。

甲状腺ホルモンは、ヨウ素を原料とし、甲状腺で作られるホルモンです。
同ホルモンは血液の流れに乗って、脳、心臓、肝臓、腎臓、骨格筋などの臓器に運ばれ、色々な臓器の代謝や機能を調節しています。

ただ何らかの原因によって甲状腺ホルモンの分泌バランスが崩れてしまい、同ホルモンが過剰に分泌、あるいは分泌不足になれば、様々な症状が起きるようになります。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されれば、甲状腺機能亢進症(代表的な疾患はバセドウ病 等)、分泌量が必要以上に低下すれば、甲状腺機能低下症(代表的な疾患は橋本病 等)となります。

当院で行っている
糖尿病診療

  • バセドウ病、橋本病などの良性甲状腺疾患の診断(採血、甲状腺エコー)と治療
  • 甲状腺結節性病変の甲状腺エコーによる精査

主な甲状腺疾患

バセドウ病とは

甲状腺ホルモンが過剰に分泌されて、動悸、息切れ、多汗、暑がり、手の震え(手指振戦)、体重減少、下痢などの症状を生じる甲状腺中毒症の中でも代表的な疾患であるのがバセドウ病です。
その原因に関しては、自己免疫の異常によって引き起こされるとされています。
甲状腺疾患は女性の患者数が多いのですが、バセドウ病の場合の男女比は1:3~5となっています。鑑別すべき疾患には、甲状腺中毒症を来す、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、機能性甲状腺腫瘍、薬剤による甲状腺機能異常、橋本病急性増悪などがありますが、中毒症に占める割合は、バセドウ病65%程度、無痛性甲状腺炎16%程度、亜急性甲状腺炎8%程度との報告があります。

バセドウ病の主な症状として、甲状腺が全体的に大きく腫れる(びまん性甲状腺腫)、頻脈、眼球突出の3つの特徴がよく知られ、多汗、体重減少、食欲が増す、下痢、手が震える、イライラするなどの症状もみられます。
女性の場合は希発月経・無月経の原因にもなります。

検査について

患者さんの訴えや現れている症状などからバセドウ病が疑われれば、血液検査を行います。甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、抗TSH受容体抗(TRAb)または甲状腺刺激抗体(TSAb)などの数値を測定するほか、甲状腺超音波検査(甲状腺エコー)で甲状腺の腫大の有無、性状、血流増大などを確認し、可能な場合は核医学検査を行い(可能な施設へ紹介)、ガイドラインに沿って診断を行います。

治療について

バセドウ病の三大治療法は内科治療(経口抗甲状腺薬)、アイソトープ治療、外科治療があり、日本における選択率は、内科治療80~88%、アイソトープ治療11~19%、外科治療1%といった報告があります。
薬物療法は、甲状腺ホルモンの合成を低下させる抗甲状腺薬であるチアマゾール(メルカゾール)、プロピルチオウラシル(チウラジール)を投与します。一般的には、妊娠初期や(授乳中)などの特別な状態を除き、効果が高く副作用が少ないとされるチアマゾールを用いて治療を行います。
治療開始直後で薬の効果が十分に発揮されていない間、動悸などの症状に対しては、βブロッカーの投与等により対症療法を行います。
また、最近では、甲状腺からの甲状腺ホルモン分泌を抑制し、即効性のある無機ヨウ素薬を併用することで、速やかに甲状腺機能の正常化を実現することが可能なことや、併用することで前述の抗甲状腺薬の投与量を軽減することが可能となりその副作用リスクを低減することが可能であるといった、抗甲状腺薬と無機ヨウ素薬の併用療法の有効性に関する報告も多くされています。
当院でも、バセドウ病の重症度を考慮し、多くの場合、チアマゾールとヨウ化カリウムの併用療法で治療を開始しております。また、抗甲状腺薬には、投与初期に多いとされる重篤な副作用である無顆粒球症(約500~1000人に1人)や、稀ではありますが、ANCA陽性血管炎症候群やインスリン自己免疫症候群といった特殊な副作用があるため、当院では慎重に治療を行っています。
また抗甲状腺薬が副作用で使えない、使用しても効果が乏しい場合は、アイソトープ(放射性ヨウ素)治療、もしくは甲状腺摘出術を行う必要があります。当院では、この場合、これらの治療が可能な医療機関へ速やかに紹介し、甲状腺機能亢進症に伴う重篤な合併症の発症予防に努めています。
アイソトープ(放射性ヨウ素)治療は放射性ヨウ素を服用し、このヨウ素が放出するβ線によって甲状腺を破壊することでホルモン分泌を抑制するというものです。この場合、数年経過してから甲状腺機能低下症になることもあり、その場合、サイロキシン補充療法(合成T4製剤(チラージンS)投与)が必要となります。アイソトープ(放射性ヨウ素)治療は、妊娠・妊娠の可能性がある女性、授乳婦は禁忌となり、18歳以下、巨大甲状腺腫や甲状腺癌の合併のほか、活動性のあるバセドウ眼症の合併を認める時は増悪リスクがあるため、治療には慎重な判断が必要です。
甲状腺摘出術の術式は、多くの施設で、バセドウ病が再燃しないこと、バセドウ病の抗体値を下げる事、下げることでバセドウ眼症合併例では改善が見込めることなどの理由により、全摘出術を選択される傾向にあります。

追記:無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、橋本病急性増悪の場合は、βブロッカーによる動悸症状のコントロールを行います。また、亜急性甲状腺炎、橋本病急性増悪の頸部痛に対しては、鎮痛薬(NSAIDs)やステロイドの投与を行います。

橋本病とは

慢性甲状腺炎とも呼ばれる甲状腺疾患です。主に自己免疫反応によって、甲状腺に慢性的な炎症が起き、それによって甲状腺が破壊され、甲状腺機能低下症でみられる症状が起きている状態が橋本病です。
40~50代の中年世代の女性が多く、女性の患者数は男性患者数の20倍とも言われています。

よくみられる症状は、甲状腺の腫れ(びまん性甲状腺腫大)をはじめ、声がれ(嗄声)、寒がり、むくみ、食欲低下、体重増加、疲れやすい、徐脈、女性の場合は月経過多・無月経などがみられるようになります。

検査について

まず、血液検査にて、甲状腺機能を評価し、原発性甲状腺機能低下症と中枢性甲状腺機能低下症を鑑別します。次に、原発性甲状腺機能低下症には、萎縮性甲状腺炎、先天性、無痛性甲状腺炎の一時期、亜急性甲状腺炎の一時期、ヨードの過剰摂取、頸部放射線治療後などの医原性が含まれ、その鑑別を要する為、症状だけでなく、採血で抗体価の数値(抗サイログロブリン抗体または抗TPO抗体)を評価し、甲状腺超音波検査で、甲状腺腫大の状態や血流の状態等を精査することで診断します。また、橋本病には、稀ですが(甲状腺悪性腫瘍の2~5%)、悪性リンパ腫を合併することがありますので、定期的に甲状腺エコーを行い、早期発見に努める必要があります。
中枢性甲状腺機能低下症には、下垂体線種、頭蓋咽頭腫などの腫瘍、リンパ球性下垂体炎、TSH単独欠損症、頭部の放射線療法後や術後、薬剤性などの医原性、結核などの感染症、Sheehan症候群などの血管障害などが含まれ、その鑑別を要する為、頭部MRI施行や下垂体ホルモン分泌刺激試験が可能な医療機関への紹介、Nonthyroidal illnessを念頭に置いた診療を行います。

治療について

甲状腺に腫れがみられるだけで、甲状腺機能に治療を要する基準を満たす異常がなければ、治療の必要はありません。ただ、将来的に、機能低下の進行や症状出現を認める可能性もあるので、定期的な経過観察は必要です。

甲状腺機能が低下した場合には、甲状腺ホルモンを内服し、甲状腺機能を正常化していくための薬物療法を行っていきます(症状が現れなくても、血液中の甲状腺ホルモンの濃度が低いと判定されると、治療の対象となります)。具体的には、副腎機能低下症が疑われる場合は、それがないことを確認した後、合成T4製剤(チラージンS)を25~50µg/日から開始します。